万年筆と烏口

先代の中川道治は東京の神保町にある保谷製作所で万年筆と製図器の製造を
修行しました。甲府に帰ってきてからブラザー萬年筆本舗を立ち上げるのですが、
私の代まで製図器の製造も行っていました。

当時の山梨工専(現在の山梨大学)の学生がよく工場に遊びにきていて、
製図器についていろいろな相談を受けたり、調整をしたこともあります。

そのような万年筆と製図器の両方に携わっていたから言えるのですが、
万年筆のペン先の研ぎ方と製図器の烏口の研ぎ方には共通する部分が実は
あるのです。

烏口とは製図の際に線を引くために使われるカラスのクチバシのような形状の
道具です。細い線を一定の太さで引くのに用いられていました。

製図ではトレーシングペーパーのような薄い紙に極めて細い線を引くことを
求められることがありますから、烏口の研ぎ方も重要です。

紙に引っかかったりしては一定の太さを保つことは出来ませんし、極細に
研いだからといて紙を破ってしまっては意味がありません。

万年筆においても極細に研いだからといって、紙を引っかけることがあっては
いけません。昔の角研ぎや私の提唱する伍角研ぎではいくら極細であっても
紙を「面」で捉えていますからそのようなことがないのです。

つまり、烏口のような極細で線を引く場合でも紙を「面」で捉えなければ
ならなく、それは万年筆でも同様ということなのです。

 # 技術的な点でご興味がございましたらお手数ですがご来店下さい。
 # ご説明いたします。

現在では烏口をお使い方はあまりおられないと思いますが、研ぎ直したい
という方は是非ご相談下さい。対応させていただきます。

(現在は修了しております。)


余談ですが、最近、極細を売りにする万年筆で、紙の繊維がペン先の切り割り
に詰まったときのために清掃器具を添付しているものがありますが、あまり
感心しません。

極細で紙が引っかかってしまうのは「点」で紙を捉えようとする丸研ぎ
ゆえのものです。そもそも紙に引っかからないような研ぎ方を考えるべき
ではないのでしょうか。

お客様に切り割りの清掃をさせてインクの流れに影響が出た場合、
余計手がかってしまう商品のように思います。